「スイス大手銀行であるUBSの米国での不祥事と オフショア金融への影響」-2
2009.05.01 プライベート・バンキング
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≡ COLUMN「スイス大手銀行であるUBSの米国での不祥事と
オフショア金融への影響」-2
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前回のメルマガでは、UBSの米国での不祥事がオフショア地域に与える
影響をテーマとしてとりあげました。今回はそれらについて特に注目すべき
点についてひとつずつ解説を試みたいと思います。
◆米国人の納税義務◆
まずUBSがこのようなサービスを米国人に提供していた事実には驚かざ
るを得ません。
米国連邦税法の課税方針は「属人主義」をとっています。これは米国人は
たとえ米国の領土外にいても米国連邦政府への所得税の納税義務が発生する
ことを意味します。ちなみに日本は属地主義をとっており、日本国内税法に
おいて居住者と見なされなければ納税義務は発生しません。つまり米国人は
どこに住んでも米国に対する納税義務がありますが、日本人は居住している
地域によっては日本に対する納税義務がなくなるのです。
更に米国人は租税回避地域いわゆるオフショア地域に設立された投資信託
「オフショア・ファンド」への投資が一切認められていません。またスイス
などに口座を開設する場合には、米国人の場合には口座開設時に情報が外部
に必ず開示されることとなっています。
これは自由にオフショア地域のサービスを利用できる日本人と比較しても、
米国人に対する規制の厳しさが良くお分かりになるかと思われます。
◆「超大国」米国の実力◆
しかし、米国政府は何故これほど厳しい規制を課すことが出来るのでしょ
うか。いくら米国が厳しい規制を作ったとしても、国際的に強制力がなけれ
ばその拘束力は期待できないのではないのでしょうか。
ところが超大国である米国はその拘束力を期待できるのです。
例えば米国人に対する規制に協力しない金融機関に対しては米国の金融株式
市場への出入りを禁止し圧力をかけます。場合によってはドルでの送金を凍
結することも可能です。
世界で最大の金融市場を有する米国への「出入禁止」は金融機関にとって
はかなりの圧力となります。世界の基軸通貨である米ドルでの送金や、米国
株式、債券、商品先物などを直接扱うことが出来なくなるからです。
更に国単位で考えた場合にもこれらの圧力は非常に大きな力を持ちます。
以前、マカオにある北朝鮮のドル口座が封鎖され北朝鮮の経済が逼迫した状
況に陥ったことは皆様の記憶にも新しいかと思います。また戦前の日本に対
する米国内資産凍結や、輸出入禁止なども究極の強制力としての良い例でし
ょう。
◆米人顧客は招かれざる客:スイスの銀行ですらもも恐れる米国政府◆
それほど超大国である米国の圧力は強力なものであり、絶対的なものです。
この圧力には多くのスイスの銀行が恐れています。万が一、米国の市場に出
入りが禁止になれば、本業の株や債券などの有価証券売買の業務、送金、為
替業務に大きな影響が出てくるからです。
そこで現在殆どのスイスのプライベート・バンクにとって米国人は「アン
タッチャブル」で「アンウエルカム」。「つまり、触れることもままならな
い、歓迎されない客」というのが暗黙の了解化しているのです。
◆武勇伝?:自ら圧力への口実を与える◆
にも拘らず果敢に米国人に対して、それも米国では明らかに違法な『脱税
幇助』サービスを行っていた、というのでは武勇伝にもならない「ヘマ」あ
るいは「失態」としか表現のしようがありません。特にUBSは米国内でも
かなりの従業員を雇用し大規模に業務を展開していることを考慮すれば、U
BSにとってあまりにも失うものが多く、なぜこんなサービスを提供したの
か全く理解できない、というのが大方のスイス関係者の感想でしょう。
いずれにせよ、UBSは自らが攻撃対象とされる絶好の口実を米国に与え
てしまったのです。もっとも、5万人もの米人顧客の口座が本当にスイスにあ
ったとしたならば、米国当局も、あえてUBSを陸に戻れないところまで泳
がしてから、UBSを叩いた可能性も否めません。
UBSにとっては今回のサブ・プライム事件で財務面で大きなダメージを
受けている上に、このような不祥事までも明るみになってしまっては「泣き
っ面に蜂」の致命的なダメージとすらいえるでしょう。しかし、多くの税金
難民者が米国から移住するスイスそしてその最大手の銀行であるUBSは米
国政府と米国内の銀行から見れば、目の上のたんこぶでしかなく、常に足を
すくうチャンスを虎視眈々と窺っていたことも想像でき、実際には今回の件
でUBSは「火に飛びいる夏の虫」だったのかしれません。(次回に続く)◆
(これは2009年4月29日に登録会員に配信されたものです)
≡ COLUMN「スイス大手銀行であるUBSの米国での不祥事と
オフショア金融への影響」-2
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前回のメルマガでは、UBSの米国での不祥事がオフショア地域に与える
影響をテーマとしてとりあげました。今回はそれらについて特に注目すべき
点についてひとつずつ解説を試みたいと思います。
◆米国人の納税義務◆
まずUBSがこのようなサービスを米国人に提供していた事実には驚かざ
るを得ません。
米国連邦税法の課税方針は「属人主義」をとっています。これは米国人は
たとえ米国の領土外にいても米国連邦政府への所得税の納税義務が発生する
ことを意味します。ちなみに日本は属地主義をとっており、日本国内税法に
おいて居住者と見なされなければ納税義務は発生しません。つまり米国人は
どこに住んでも米国に対する納税義務がありますが、日本人は居住している
地域によっては日本に対する納税義務がなくなるのです。
更に米国人は租税回避地域いわゆるオフショア地域に設立された投資信託
「オフショア・ファンド」への投資が一切認められていません。またスイス
などに口座を開設する場合には、米国人の場合には口座開設時に情報が外部
に必ず開示されることとなっています。
これは自由にオフショア地域のサービスを利用できる日本人と比較しても、
米国人に対する規制の厳しさが良くお分かりになるかと思われます。
◆「超大国」米国の実力◆
しかし、米国政府は何故これほど厳しい規制を課すことが出来るのでしょ
うか。いくら米国が厳しい規制を作ったとしても、国際的に強制力がなけれ
ばその拘束力は期待できないのではないのでしょうか。
ところが超大国である米国はその拘束力を期待できるのです。
例えば米国人に対する規制に協力しない金融機関に対しては米国の金融株式
市場への出入りを禁止し圧力をかけます。場合によってはドルでの送金を凍
結することも可能です。
世界で最大の金融市場を有する米国への「出入禁止」は金融機関にとって
はかなりの圧力となります。世界の基軸通貨である米ドルでの送金や、米国
株式、債券、商品先物などを直接扱うことが出来なくなるからです。
更に国単位で考えた場合にもこれらの圧力は非常に大きな力を持ちます。
以前、マカオにある北朝鮮のドル口座が封鎖され北朝鮮の経済が逼迫した状
況に陥ったことは皆様の記憶にも新しいかと思います。また戦前の日本に対
する米国内資産凍結や、輸出入禁止なども究極の強制力としての良い例でし
ょう。
◆米人顧客は招かれざる客:スイスの銀行ですらもも恐れる米国政府◆
それほど超大国である米国の圧力は強力なものであり、絶対的なものです。
この圧力には多くのスイスの銀行が恐れています。万が一、米国の市場に出
入りが禁止になれば、本業の株や債券などの有価証券売買の業務、送金、為
替業務に大きな影響が出てくるからです。
そこで現在殆どのスイスのプライベート・バンクにとって米国人は「アン
タッチャブル」で「アンウエルカム」。「つまり、触れることもままならな
い、歓迎されない客」というのが暗黙の了解化しているのです。
◆武勇伝?:自ら圧力への口実を与える◆
にも拘らず果敢に米国人に対して、それも米国では明らかに違法な『脱税
幇助』サービスを行っていた、というのでは武勇伝にもならない「ヘマ」あ
るいは「失態」としか表現のしようがありません。特にUBSは米国内でも
かなりの従業員を雇用し大規模に業務を展開していることを考慮すれば、U
BSにとってあまりにも失うものが多く、なぜこんなサービスを提供したの
か全く理解できない、というのが大方のスイス関係者の感想でしょう。
いずれにせよ、UBSは自らが攻撃対象とされる絶好の口実を米国に与え
てしまったのです。もっとも、5万人もの米人顧客の口座が本当にスイスにあ
ったとしたならば、米国当局も、あえてUBSを陸に戻れないところまで泳
がしてから、UBSを叩いた可能性も否めません。
UBSにとっては今回のサブ・プライム事件で財務面で大きなダメージを
受けている上に、このような不祥事までも明るみになってしまっては「泣き
っ面に蜂」の致命的なダメージとすらいえるでしょう。しかし、多くの税金
難民者が米国から移住するスイスそしてその最大手の銀行であるUBSは米
国政府と米国内の銀行から見れば、目の上のたんこぶでしかなく、常に足を
すくうチャンスを虎視眈々と窺っていたことも想像でき、実際には今回の件
でUBSは「火に飛びいる夏の虫」だったのかしれません。(次回に続く)◆
(これは2009年4月29日に登録会員に配信されたものです)