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米国の富裕層課税論争、日本居住者の資産に何が起きるか

2026.11.08 日米資産戦略研究所 / 出典:複数の公開情報をもとに日米資産戦略研究所が分析・作成(確認日 2026.11.08)

写真はイメージです

「米国で、富裕層への課税をめぐる投票があったらしい。米国株を持つ自分の資産にも、関係があるのだろうか」

日本で会社を経営するAさん(60代)は、ニュースを見て手を止めました。米国株をそれなりに持っているからです。実は、今回の投票そのものより、日本に住む人が見落としやすい論点が別にあります。この記事では、投票の中身を公式資料で確かめたうえで、日本に住む人の資産に本当に関わる「相続」「贈与」「日本側の申告」を整理します。


まず押さえたい、3つのポイント


  1. カリフォルニア州のProp 40は、同州の居住者で純資産10億ドル以上の人への、5%の一時課税案。課税の基準日は2026年1月1日で、日本に住む一般の投資家に直接かかる話ではありません。
  2. 日本に住む人に効きやすいのは、米国資産の「相続」と「贈与」の扱い。IRSは、米国籍でない非居住者でも、米国にある資産が一定額を超えると遺産税の申告対象になるとしています。
  3. 所得税の日米租税条約は、相続税・贈与税を対象にしていない。ただしIRSの条約一覧には、日本を相続・贈与の欄に載せた別の条約もあります。日本側にも、出国税や国外財産調書など、別の申告・課税の仕組みがあります。

$60,000

米国にある資産がこの額を超えると、非居住の非米国市民でも遺産税の申告対象になり得ます
参考:IRS(2026年6月時点の掲載)。この基準額は物価で調整されません。


Prop 40の中身を、公式資料で確かめる


州の有権者ガイドと条文にあたると、論点は次のとおりです。賛成・反対双方の試算は、州ガイドが「公的機関による正確性の確認を受けていない」と注記している主張なので、ここでは扱いません。


項目公式資料の記載
対象2026年1月1日時点でカリフォルニア州の居住者で、世界の純資産(配偶者分を含む)が10億ドル以上の人
税率純資産の5%。1回限り。11億ドル未満は条文上、段階的に軽減
評価と納付純資産は2026年12月31日時点で評価。納付は2027年。5年分割もできるが、年7.5%の繰延手数料がかかる
使い道90%が医療、10%が教育・食料支援
公的な見積り州の立法分析局は「数百億ドル規模の一時的な税収増」と説明
注意点同じ投票の競合案(Prop 41・42)が賛成票で上回ると、40が過半数でも、裁判で止まる可能性があると分析局が説明

投票は2026年11月3日に実施されました。結果は、州の発表では12月3日までに最終集計、12月11日に認証される予定です。報道の早期集計は確定した結果ではないため、本稿では結果を断定しません。


日本に住む人に効く論点①:米国資産の「相続」


IRSは、米国にある不動産や有形の動産のほか、米国法人の株式を、保有証書を国外に置いていても米国にある資産としています。米国法人の株式が対象となる点は、条文(米国内国歳入法2104条)にも書かれています。一方、被相続人が米国籍でない非居住者の場合、生命保険金は米国にある資産に含まれません(同2105条)。


申告書はForm 706-NAで、期限は死亡から9か月です。条文では、税額は最高40%の累進税率で計算され、条約が適用されない場合の税額控除は13,000ドルにとどまります。ただし日本は、IRSの申告書の手引で条約による控除の調整が適用される相手国に挙げられており、その場合の控除は後述のとおり大きく変わります。日米租税条約(所得税・法人税)は、相続税・贈与税を対象としていません。一方で、1954年に署名された日米の相続・贈与の条約が別にあり、IRSの条約一覧にも日本が「Estate & Gift」の欄に載っています。条約の原文(国連条約集)の内容は、後の節で整理します。


日本の相続税は、法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える部分に、最高55%の税率がかかります(国税庁No.4155)。計算の最後に差し引く税額控除の一つに、外国で課された税の控除があります(No.4152)。


日米の相続・贈与の条約は、何を決めているか


条約の原文は、国連条約集(第238巻、No.3353)に収録されています。署名は1954年4月16日、発効は1955年4月1日です。対象は、米国側が連邦の遺産税・贈与税、日本側が相続税(贈与税を含む)です。主な条文は次のとおりです。


条文内容(原文の要旨)
第2条(3) 住所・国籍被相続人に住所があったか国民かは、各国が自国の法律で判断する。判断が食い違う場合の決め方は条約にない
第3条 資産の所在土地は所在地、銀行預金などの債権は債務者の居住地、株式は法人が設立された国にあるものとみなす
第4条 所在だけで課税する国自国の居住者並みの特別控除を、国内資産の割合に応じて与える
第5条 二重課税の調整国籍・住所で課税する国は、相手国が所在地を理由に課した税額を自国の税から控除する。両方の税が同時に課されたことが要件で、請求は納期から5年以内
第9条 発効・終了1955年4月1日に発効。いずれの国も、5年経過後に通告で終了できる

米国側の控除は、内国歳入法2102条(b)(3)(A)が定めています。条約上の義務がある場合、控除額は「死亡年の基礎控除額に対応する税額に、全世界の総遺産のうち米国にある部分の割合を乗じた額」です。2026年の基礎控除額は15,000,000ドル(IRS、2026年11月3日更新)で、対応する税額は5,945,800ドルです(税率表は、1,000,000ドル超が345,800ドルに超過額の40%を加えた額)。IRSの申告書の手引は、この規定が適用される条約の相手国に日本を挙げています。


この規則による試算は次のとおりです。各種の控除、過去の贈与、条約で除外される資産は考慮しない簡略計算で、個別の助言ではありません。


米国にある資産全世界の資産条約による控除米国の遺産税(試算)
200万ドル1,000万ドル約1,189,160ドル0ドル
500万ドル1,000万ドル約2,972,900ドル0ドル
1,000万ドル3,000万ドル約1,981,933ドル約1,963,867ドル
1,000万ドル5,000万ドル約1,189,160ドル約2,756,640ドル

全世界の資産が大きく、米国の割合が低いほど、控除は小さくなります。条約に基づいて申告する場合は、申告書に条約に基づく位置づけである旨の説明書を添付する必要があります(Form 706-NAの手引)。


日本側では、相続税法20条の2が、外国で相続税に相当する税が課された財産について、その税額を控除すると定めています。控除には限度があり、算出した相続税額に、その財産の価額が課税価格に算入された財産全体に占める割合を乗じた額までです(e-Gov法令検索、令和8年4月1日施行の現行条文)。


条約が現在も有効であることは、米国務省の「Treaties in Force 2026」(基準日2026年1月1日)に、この条約が終了の記載なしで載っていること、IRSの条約一覧(2026年9月8日更新)と申告書の手引に日本が載っていることで確認しました。一方、日本の財務省・国税庁のページでは、この条約の掲載を確認できていません。基準日以降の変更も確認できていないため、実際の申告では最新の状況を専門家に確認してください。


日本に住む人に効く論点②:「贈与」は扱いが違う


米国の贈与税は、米国籍でない非居住者が株式などの無形資産を贈与する場合、原則として課されません(同2501条)。ただし、不動産などの有形資産はこの除外の対象ではなく、米国籍の放棄者に関する例外もあります。日本の贈与税はこれとは別に判断が必要なので、「米国で贈与税がかからない」ことと「全体として有利」は同じではありません。


米国の贈与税が原則かからない側

米国株などの無形資産を、日本に住む米国籍でない人が贈与する場合。

前提が変わる側

米国の不動産などの有形資産の贈与。米国市民、米国に住所がある人、米国籍の放棄者。


日本側の4つの仕組み


1つ目は、出国税です。国税庁は、国外転出時課税の対象を、有価証券等の価額が1億円以上で、転出前10年以内に国内に5年を超えて住んでいた人としています。納税猶予があり、猶予は5年、届出で最長10年です。相続の場合は、被相続人が同じ要件に当たり、相続人が非居住者のときに同様の特例があります。


2つ目は、相続税の取得費加算です。相続した資産を譲渡するとき、相続税の一部を取得費に加算できます。適用は、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡に限られます。


3つ目は、国外財産調書です。12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円を超える居住者は、翌年6月30日までの提出が必要で、提出しない場合や偽りの記載には罰則があります。相続開始年は、相続で取得した国外財産を除いて判定でき、記載せずに提出できるとされています。


4つ目は、相続人が海外に住む場合です。日本に住所がない相続人は、国籍や被相続人の日本での居住歴などの区分により、課税が日本国内の財産に限られることがあります(国税庁No.4138)。区分の詳細は、必ず原典で確認してください。


専門家に聞くこと(チェックリスト)



Aさんの場合


Aさんは、まず米国株の保有額を一覧にしました。60,000ドルを大きく超えていることを確認し、国際税務に詳しい税理士に、米国での申告の要否と日本との調整を相談することにしました。あわせて、子が海外に住む計画があることを伝え、日本側の課税範囲も確認しました。投票の結果に一喜一憂するより、自分の資産と家族の居住地を整理することが先、と気づいたからです。


参考



本稿は複数の公開情報をもとに、日米資産戦略研究所が分析・作成した一般的な参考情報です。個別の税務・法務の判断は、専門家にご相談ください。

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