最終更新:2026年10月
エステート・プランニングにおける海外居住という選択肢
人口減少と高齢化が進む日本では、資産家・富裕層にとって資産と生活の拠点を国際的に分散させることが、エステート・プランニング(資産承継計画)の重要なテーマとなっています。主な移住先候補としては、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどが挙げられます。中でもオーストラリアは日本との時差が小さく、気候・治安・生活環境に恵まれていることから、根強い人気があります。
インターネットやオンライン会議の普及により、「仕事は日本、住まいは海外」というライフスタイルは以前よりも現実的なものとなりました。
ただし、「海外に移住すれば相続税がかからない」という時代ではありません。日本の税制は改正を重ねて国外移住による課税回避への対応を強めており、移住先の国の税制も考慮する必要があります。また、各国の移住制度は近年大きく変わっており、かつての「投資家ビザ」の多くは廃止・縮小されています。以下では2026年10月時点の主な制度の概要をご紹介します。
移住前に確認すべき日本の税制
国外転出時課税制度(いわゆる出国税)
2015年7月に導入された制度です。国外転出時に有価証券等を合計1億円以上保有し、かつ国外転出の日前10年以内に日本国内に住所または居所を有していた期間が5年超ある場合、保有する有価証券等を転出時に譲渡したものとみなして、含み益に所得税(復興特別所得税を含む)が課税されます。
- 対象資産:株式・投資信託などの有価証券、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引・デリバティブ取引など
- 納税管理人の届出と担保提供などの要件を満たせば、5年間(申請により10年間まで延長可)の納税猶予を受けられます
- 猶予期間内に帰国し、対象資産を保有し続けている場合は、課税の取消しを求めることができます
- 国外に住む人への贈与・相続で有価証券等が移転する場合にも、同様の課税の対象となります
相続税・贈与税の「10年ルール」
2017年度の税制改正により、日本国籍を持つ方が国外財産について日本の相続税・贈与税の課税対象外となるためには、原則として被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)の双方が、相続・贈与前10年を超えて日本に住所を有していないことが必要となりました(改正前は5年)。
- 日本国内にある財産は、国外居住の期間にかかわらず日本の相続税・贈与税の課税対象です
- 「住所」は住民票ではなく生活の本拠の実態で判断されるため、形式的な転出だけでは足りません
- 移住先の国の相続税・贈与税・遺産税(例:米国の遺産税、カナダの死亡時みなし譲渡課税など)との二重課税にも注意が必要です
出典:国税庁 タックスアンサー No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
オーストラリア:技術移民(ポイント制)
オーストラリアの独立技術移民(サブクラス189)、州指名技術移民(190)、地方技術移民(491)は、職業リスト・技能審査(スキルアセスメント)・ポイントテストによって審査されます。申請は SkillSelect で関心表明(EOI)を提出し、招待を受けた上で行います。
申請の主な最低要件
- 年齢
- 招待時点で45歳未満。
- 英語力
- Competent English 以上(例:IELTS 各セクション6.0以上相当)。
- 職業・技能
- 対象職業リストに掲載された職業で、指定機関の技能審査に合格していること。
- ポイント
- ポイントテストで65点以上(合格点)。ただし実際の招待水準は職業ごとに大きく上回ることが一般的です。
年齢
- 18~24歳
- 25点
- 25~32歳
- 30点
- 33~39歳
- 25点
- 40~44歳
- 15点
英語
- Superior English(例:IELTS 各8.0以上相当)
- 20点
- Proficient English(例:IELTS 各7.0以上相当)
- 10点
- Competent English(例:IELTS 各6.0以上相当)
- 0点
職歴(過去10年以内・国外と国内の合計上限20点)
- オーストラリア国外での職歴 3年以上/5年以上/8年以上
- 5点/10点/15点
- オーストラリア国内での職歴 1年以上/3年以上/5年以上/8年以上
- 5点/10点/15点/20点
学歴・その他
- 博士号
- 20点
- 学士号以上
- 15点
- ディプロマ・トレード資格等
- 10点
- 豪州の研究系修士・博士(STEM分野)
- 10点
- オーストラリアでの2年以上の就学
- 5点
- 指定地方地域での就学
- 5点
- コミュニティ言語資格(NAATI等)
- 5点
- プロフェッショナル・イヤー修了
- 5点
- 配偶者要件(単身、配偶者が豪州市民・永住者、または配偶者が技能要件を満たす場合)/配偶者がCompetent English
- 10点/5点
- 州・準州政府の指名(190)/地方指名・家族スポンサー(491)
- 5点/15点
※豪州政府は2026年5月の予算発表でポイントテストの見直し方針を示しており、2027年7月からの導入が見込まれると報じられていますが、2026年9月時点で具体的な改正内容は確定していません。申請を検討される場合は最新情報をご確認ください。
出典:豪州内務省 Department of Home Affairs
オーストラリア:投資家・退職者ビザ
かつて資産家向けの代表的な移住手段であった投資家ビザ・退職者ビザは、現在いずれも新規申請を受け付けていません。
- ビジネス・イノベーション・投資プログラム(BIIP:サブクラス188/888/132)
- 投資家ストリーム、重要投資家(Significant Investor)ストリームなどを含むプログラムでしたが、2024年7月に新規受付を終了しました。既存の188ビザ保有者による888(永住)ビザへの移行は引き続き可能です。
- 投資退職者ビザ(サブクラス405)
- 2018年に新規申請の受付を終了しています(既存保有者の更新のみ)。
- ナショナル・イノベーション・ビザ(サブクラス858)
- 2024年12月に新設された永住ビザで、国際的に認められた卓越した実績を持つ人材が対象です。関心表明(EOI)による招待制で、一定額の投資を条件とするビザではありません。
アメリカ
EB-5 投資移民プログラム
2022年3月成立の「EB-5改革・公正法(EB-5 Reform and Integrity Act of 2022)」により、現在の要件は次のとおりです。
- 最低投資額:105万ドル(標準)、80万ドル(ターゲット雇用地域〔TEA〕またはインフラ案件)
- 投資により米国人労働者の常勤雇用を10名以上創出(または維持)すること
- リージョナル・センター(地域センター)経由の投資では、間接雇用も雇用創出に算入できます
- リージョナル・センター・プログラムの授権期限は2027年9月30日です
- 最低投資額は2027年1月1日に物価上昇率に応じて改定される予定です
ゴールドカード
2025年9月の大統領令により、米国政府への100万ドルの寄付(法人スポンサーの場合は200万ドル)と手数料を条件に、EB-1/EB-2の枠組みで永住権取得を目指す「ゴールドカード」制度が設けられ、同年12月に申請受付が開始されました。ただし承認実績はごく僅かと報じられており、法的な位置付けにも議論があるため、動向を注視する必要があります。
※米国の永住者は全世界所得課税および連邦遺産税・贈与税の対象となる点にもご留意ください。
出典:米国移民局 USCIS EB-5 Immigrant Investor Program
カナダ
- 連邦投資家移民プログラム
- かつて「純資産80万カナダドル以上・5年間の投資」を要件としていた連邦制度は2014年に廃止されています。
- スタートアップ・ビザ(連邦)
- 2026年1月1日をもって新規受付を終了しました。後継制度の導入が予定されていますが、詳細は未確定です。
- ケベック州投資家移民プログラム(QIIP)
- 2024年に新要件で再開されました。主な要件は、純資産200万カナダドル以上、120万カナダドルの投資(うち20万カナダドルは返還されない拠出金)、高度なフランス語能力(口頭B2相当)、過去5年以内の2年以上の経営経験などです。受付は期間と件数枠を限って行われるため、最新の受付状況はケベック州移民省(MIFI)でご確認ください。
ご注意
本ページは2026年10月時点で公表されている情報をもとに、各国の制度の概要をまとめたものです。移民制度・税制は予告なく変更されることが多く、近年は多くの国で投資による移住の要件が厳格化・廃止される傾向にあります。実際の申請や移住・資産承継の計画にあたっては、各国当局の最新情報をご確認のうえ、移民法・税務の専門家にご相談ください。

