業界の発展がマイナスになっているヘッジファンドのリスク
ある有名なヘッジファンド運用担当責任者は、「ヘッジファンド業界には多くの資金が流入しており、今後投資家たちが期待したような高い収益を得るのが難しくなってきている。」と語った。あるヘッジファンドの会議において「少しの資産を多くの資金が取り合うリスクが確実に存在する。」とソファー・キャピタル社の常務取締役マイケル・ソフィア氏は語っている。
1989年アジアで最初のヘッジファンドを始めたことで有名なソフィア氏は「多くの資金がよりヘッジファンド業界に流入するほど、運用収益が月並みなものになって行くのはあたりまえの論理である。」とも言う。
過去2年間以上にわたりヘッジファンドや代替投資へは大量の資金が流入しており2001年だけでもおおよそ1,000以上の新たなヘッジファンドが組成されている。そして、すでに運用者達が資産を投資家に返却しなければならない状況になっている、とヘッジファンド業界の主要プレーヤーは語る。
大規模な米国のヘッジファンドは急速に成長しすぎたため、投資家に資産を返却する事を余儀なくされている。そしてそれにより少ない収益をもたらす結果となっている。」と30億米ドルを運用しているキャピタル・Z・インベストメント・パーターズの会長兼最高経営責任者であるローレンス・チャンは語る。
世界中の4,000のヘッジファンドをモニタリングしているCSFB/トレモントヘッジファンド・インデックスによると、2001年においてはMSCIワールド・インデックスに代表される伝統的市場は17.8%の損失を出している一方で、ヘッジファンドは4.42%という良好な収益を上げている。世界のヘッジファンドは、その運用資産を2000年の4500億米ドル程度から1年後には5000億USドルと増加させ、2002年の第一四半期の終わりには約5650億USドルにまで成長をしている。
ヘッジファンド業界に信託やその他のサービスを提供しているバーミューダ銀行によると、日本を除くアジア太平洋地域を対象とするヘッジファンド、あるいは代替投資の資産は2001年に33%跳ね上がり160億USドルにまで達している、との事である。
伝統的な資産である株式市場の下落が、株式市場とは低い相関性を持つ代替投資に対しての投資家達の興味を増幅させている。 守秘性が高く規制の少ない、特にオフショア・ファンド等は短期株売買、収益を高めるためのレバレッジなどの投資戦略を組み込む事により、より分散された投資手法を提供している。ヘッジファンドは、下落する相場によって投資家が大きな損失を出し苦しみ、リスクを負わされているときに、2000年、2001年と立て続けに収益を生み出している。
「ヘッジファンドには「投資家達の大きな期待」、というリスクが内在する。下落相場においてヘッジファンドが伝統的なロング・オンリー(買持ち)のファンドのように常に優れた結果を出すとは限らない。」とマン・インベストメント・プロダクツのアジア・パシフィック地区のマネージャーであるマット・ディロンは語っている。
香港当局によると、今月初めに個人投資家へヘッジファンドの販売を認める、という論争を招きそうな当局の決断の裏には、活発な需要と、香港をエキゾチックなファンドへの販売を認める世界で数少ない地域にしたい、との配慮があるようである。
業界筋の推測では今年アジア地区で更に20億米ドルから50億米ドルもの資金が集められるとしている。約12億米ドルの資産を運用するソフィア氏はこの金額は、運用者が対応できる数字ではなく、得られる収益も正当化するには程遠い数字にしかならないであろう、と会議で述べた。 J.P.モルガン・オルタネーティブ・アセット・マネジメント社長であるジョエル・カズマン氏によれば、これらの数字は現在、世界のヘッジファンド業界が対応できる水準を上回っている、との事である。そして、この業界においては才能が不足し、数少ない才能が潰される様な状況も起こっているとしている。
「あるヘッジファンド戦略においては―例えば案件が減少すると共に運用成績が下落したM&Aアビトラージの様に―運用実績が短期的に低迷する一方でヘッジファンド全体は、伝統的な資産よりも良好な運用成績を上げ続けるであろう。」と、ソフィア氏は言う。
「ヘッジファンド業界は繁栄を続けるであろうが、不安定さも伴うであろう。」とソフィア氏は最後に結論付けている。
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