米系大手金融機関プライベート・バンキング業務全面撤退
先週の金曜日の夕刻に世界最大手の金融機関であるシティー・バンクについての記事が出て いました。今回はそれに関するお話です。
■■■■■■■■事実上プライベート・バンキング部門の日本撤退■■■■■■■■
9月17日(金)の夕刻に以下の様な内容のニュースが流れ会員の皆様もお読みなられたの ではないでしょうか?
「金融庁は17日、米大手銀行のシティバンク在日支店に対し、資産家を対象としたプライ ベートバンキング業務において口座不正開設や業務外の取引を行うなど重大な法令違反が多数 あったとして、来年9月末に同部門を担う東京・丸の内支店、名古屋、大阪、福岡出張所の4 拠点の認可を取り消す処分を発表した。
事実上プライベートバンキング部門の日本撤退を命じる内容。処分を受けシティバンクは、 来年9月末での4拠点の閉鎖を決定。閉鎖に先立って4拠点は今年9月29日から1年間の業 務停止となり清算業務に専念する。シティバンクは日本での重要な収益源の1つが消え、対日 戦略の見直しを迫られそうだ。」
■■■■■■■■過去の限定されていたサービスと、今回の出来事の予兆となるような取引■■■■■■■■
シティー・バンクがプライベート・バンキング業務の本格的に参入したのは、1997年頃 からですが、当時のサービスは現在のプライベート・バンキングとは大きくかけ離れたもので した。
もともと銀行出身の人間も多いため、また銀行での株、投資信託等のリスク商品の販売が 認められていないこともあって、主には外貨預金と為替に関する派生商品等が商品の中心でし た。その後1998年に金融ビッグバンが起きてからも数年は自社が運用を行なっている伝統 的な投資信託を顧客に販売する程度のプライベート・バンキング・サービスでした。
ただ、その当時から現在の前兆となるような取引やそれに対する苦情はそれなりに在ったよ うです。例えば、販売した投資信託が大きく値下がりして顧客に大きな損失を与えたり、外貨 を用いた委託証拠金取引もどきの商品を、値下がりリスクを説明せずに顧客に販売をしたりと。 当時そんな理由からシティー・バンクにあいそをつかし、他に移るお客もかなり居たようです。
■■■■■■■■現在のプライベート・バンキング・サービス■■■■■■■■ その後、シティー・バンクは米国の保険グループであるトラベラーズに実質吸収されました。
現在の様なプライベート・バンキング・サービスのスタイルが固まってきたのはここ数年の 僅かな期間であると思われます。
面白いことに、この時期はアメリカのインターネット・バブルが弾けアメリカの企業が不正 会計操作などで信用を失墜させた時期にちょうど当たります。そして同時に多くのアメリカの 銀行においても不良債権の存在が、事の真偽は別として、ささやかれていた時期でもありまし た。
この時期からシティ・バンクのプライベート・バンキング・サービスは攻撃的になって行き ました。
それまでは主に自社の商品、それも伝統的な投資信託だけを顧客に販売していたのにも関わ らず他社が運用する代替投資などもその品揃えとしてそろえてゆきました。また、スイスのプ ライベート・バンクが提供するような、ロンバード・ローン業務(有価証券を担保にした融資 )もかなり積極的に顧客に提供するようになっていました。
■■■■■■■■モデルはスイスのプライベート・バンキング・サービス?■■■■■■■■
これらのサービスは日本の金融機関がどこも提供をしていなかったものですが、スイスなど のプライベート・バンクでは当然のように顧客に提供されていたサービスだったのです。従っ て日本では大変画期的なもので顧客には評判になりました。 しかし、一つだけ落とし穴が在りました。
それはこれらのサービスのモデルとなったスイスを含む欧州では、「ユニバーサル・バンキ ング」と呼ばれる金融システムによってサービスを提供しているのです。ちなみに日本は米国 の「グラス・スティーガル法」を模した銀行業、証券業を分離するシステムを取っています。
そして各業法で定められた以外の業務を行なう事が認められていないのです。
シティー・バンクのプライベート・バンキング部門はこれを知ってか、知らずか、なし崩し 的にスイス型のプライベート・バンキング・サービスを取り入れて顧客にに突進していったよ うに見えます。そして、これはあくまでも推測ですが、やはり米国本社からの高い収益目標を 達成せんがために、法的な解釈をかなり拡大して業務を進めていたフシがあります。
伝統的なスイスの銀行は顧客との長い付合いを前提としているため、商品中心の営業活動は 原則しません。またプライベート・バンカーズに至っては株主が居ないため株主に対して迎合 する必要も無いのです。
その他にも一支店長が十数億にも上る顧客の金を横領したり、シンガポールで顧客のデータ を紛失したり、と一般的な管理にもずさんさが目立いきました。
■■■■■■■■今回の処分は単なる外資系たたきか?■■■■■■■■
一部には出遅れている邦銀からの要望によって今回の処分が下された、等と少しうがった見 方があります。
確かに彼ら邦銀に比べて、業務を収益の観点から見た純粋なビジネスと見ており、そう云っ た点からは明らかに目新しく富裕層のニーズには非常に荒っぽいやり方ではありますが、一通 り応えていたことも事実です。
しかし、同時にシティー・バンク自体もトラベラーズ・グループに吸収されてから、かなり きついバジェットを要求され収益至上主義に走り、収益を上げるために比較的経験の浅い顧客 にとって、明らかに不利な取引を勧誘して「お行儀が悪く」なった事も決して大げさはないと と思われます。
■■■■■■■■金融業界ではブランドは絶対的なものでは決して無い■■■■■■■■
ある人から聞いた話ですが、シティー・バンクのプライベート・バンキング・サービスを受け て大きく損をしていたのにも拘らず、同時トラベラーズ・グループの会長でだったサンフォード ・ワイルが報酬として邦貨換算で数十億を受け取っていた、と言う事実を知って憤慨してました。
「納得がいかない」と。
彼からしてみると、顧客である自分がが大きく損をしているのにも拘らず、会長が多額の報 酬を受け取っている事がよほど理不尽に感じたのでしょう。
人それぞれの考えがあると思いますが、金融・投資サービスを行なっている企業において、 あまりにも羽振りが良いとか、高収益を上げている場合は要注意です。その収益が何処から生 じているのかを調べて見ることも決して損にはならないかもしれません。
日本に限らずアジアではブランドについての信仰が高い、とあるスイスの銀行家に言われた ことがあります。日本に限らず、アジア地域ではブランドについての信仰が高いようです。筆 者の経験からで恐縮ですが、ブランドやイメージだけで金融機関を選ぶことは間違ってはいな いかもしれません。しかし「十分条件」と考えてしまうと大きな失敗をするでしょう。
■■■■■■■■<何処に行くのか国内富裕層>■■■■■■■■
シティー・バンクのプライベート・バンキング部門には顧客は数千人程度は居たと思われま す。しかし、今回の処分でこれらの顧客は口座をこの一年で口座を閉鎖しなければならなくな ってしまいました。
「100年後も豊かでいるために」
これはシティ・バンク富裕層向けに使っていたキャッチ・フレーズですが、今となってはあ まりにも空々しく聞こえます。
しかしシティー・バンクの代替として日本の金融機関はあまりにもサービスの質が低く何処 を受け皿にすればよいのか途方にくれる富裕層も多いと思います。
一つの選択肢が消えた今、国内の富裕層はいったに何を頼って資産を守り、増やして行けば よいのでしょうか?
資産運用、保全について国内には選択肢があまりにも少なすぎる、そんなことを改めて考え させる出来事でした。◆
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